なにも持たない青年が、必死になって上りつめようとする作品です

お品書き:『極悪がんぼ』 原作:東風孝広、作画:東風孝広 講談社



さて、今日は、青木雄二先生特集です。
今回、ひとつづつの作品にコメントを入れなかったのは、青木雄二先生が持つ独自の哲学があり、それが全ての作品で統一しているからです。


青木氏は20代前半に公務員を辞め、ボーイ、パチンコ屋店員など様々な職業を転々とし、デザイン会社の社長になり、40歳過ぎてからの漫画家という異例のデビューをはたしました。
出世作ナニワ金融道』は、ゼニのからくりを、ゼニの正体を、ゼニがどのように人を狂わすかを独自の観点でつづった名作を世に送りました。この作品は現在でも銀行の新入社員のマニュアルで使われたりし、様々な波紋を残しました。


青木氏は『ナニワ金融道』以降は直接ペンをとっておりませんが、青木イズムというようなプロレタリア文学的な世界観、ペンタッチ(人物、背景に細かくペンを入れる)は共通しています。
また、漫画家引退後は、主に時事評論などの執筆活動に力を入れていたようです。私の知る限り、青木雄二の名のつく本だけで10冊以上はありました。


カバチタレ!』は、広島の司法事務所で起こる様々な事件を描く作品です。青木氏は監修という立場でしたが、『ナニワ金融道』と同じように、人間関係のあさましさがあります。


2003年に逝去された後も、青木氏の遺志を引き継ぐような形で、今も『特上カバチ!!』『極悪がんぼ』といった秀作を世に送り出してます。


特上カバチ!!』は青木氏が亡くなったのをうけた『カバチタレ!』の正当な続編です。設定・ストーリーは変わっておりません。新キャラクターの女性司法書士が加わりました。


極悪がんぼ』は上記2作とはちょっと毛色の異なる作品です。
なにが違うのかというと、『ナニワ金融道』も『カバチタレ!』も金融や司法のプロで勤め人が主人公ですが、この漫画の主人公はなにも持たない、なんの特技もないただの青年です。
極悪がんぼ』は労働船を脱走した若者が、秘密探偵事務所に入り、月に何千万円もの借金を背負いながら、それ以上の利益を得るために犯罪(ぎりぎり)、非情な駆け引きをする漫画です。


最後に「青木イズム」と書いた、青木雄二生の哲学についてふれたいと思います。
青木雄二氏の主張することはただひとつです。
それは、今の日本を「共産社会」にすることです。
お金持ちがますます肥え、ビンボー人はますます増え、一層貧しくなる社会になると何度も生前中警告してました。
2006年今現実はどうでしょう・・・ 生活保護を例にとってみましょう。
生活保護世帯が100万を超え、それを減らすために財政を厳しくすると政府は言ってます。生活保護にならざるを得ない背景はなんなのでしょう?そこを改善しなければますます生活保護は増えるのではないでしょうか?今の政府は、生活保護の申請を厳しくすること、生活保護世帯の財政緊縮を行って、「ビンボー人をますますビンボーにする」を行おうとしております。
青木氏の主張は、金持ちの資産もビンボー人の資産も同じに平らにすること。共有化することを述べてます。青木氏の歩いた人生観、そして『ナニワ金融道』では、作品中、資本主義の矛盾、やりきれなさを書いていると思います。だから共産主義を主張し、資産を共産化すべきだという考えに至ったのかもしれません。


青木雄二先生の作品は、労働者のための漫画です。
プロレタリア文学の正統な後継者なのかもしれません。